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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)666号 判決 1968年3月28日

上告人

株式会社マヤマ

右代表者

真山勇

右訴訟代理人

半沢健次郎

被上告人

佐々木伊三郎

右訴訟代理人

岡得太郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人半沢健次郎の上告理由について。

原審(第一審判決引用。以下同じ。)は、本件賃貸借は裁判上の和解によつて成立したものであるから、それによつて定められた一〇年の賃借期間は、借地法一一条の規定に違反するものでないと判断している。しかしながら、賃貸借契約が裁判上の和解により成立した一事をもつて、右契約に同条の適用がないとするのは相当ではなく、裁判上の和解により成立した賃貸借についても、その目的とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等、諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的な理由が存する場合にかぎり、右賃貸借が借地法九条にいう一時使用の賃貸借に該当するものと解すべく、かかる賃貸借については、同法一一条の適用はないと解するのが相当である。けだし、裁判上の和解による賃貸借の場合には、それが裁判所の面前で成立するところから、単なる私法上の契約の場合に比し、双方の利害が尊重され当事者の真意にそう合意の成立をみる場合が多いであろうが、この場合同条の適用がないと解するならば、契約当事者、特に一般に経済上優位にある賃貸人が、形式上、裁判上の和解の手続をふむことによつて、前記のような客観的条件の存否にかかわりなく借地法の規定する制約から解放されることになり、借地人の保護を主たる目的とする同法の趣旨にそわない結果を招来するにいたるからである。したがつて、右の見地に立つて考察するときは、原審が、前記理由のもとに、本件賃貸借に借地法一一条の適用がないとしたことは、違法たるを免れない。

しかしながら、原審の認定するところによれば、本件賃貸借は被上告人の上告人に対する建物収去土地明渡請求事件についての裁判上の和解において成立したというのであり、また、右賃貸借において期間が一〇年と定められたのは被上告人が右期間内に限り右土地を賃貸し、上告人がその期間内に限り、右土地を賃借し、その期間経過とともに地上建物を収去して土地を明渡すことを約したに基づくということを認めるに難くなく、右の事実、および本件賃貸借成立にいたる経緯に照らせば、本件和解当事者である上告人と被上告人は、期間の点につき借地法の規定の適用を受くべき契約を締結する意思がなかつたものと認め得るのである。しからば本件賃貸借は一時使用のものであつたというべく、したがつて、原審が裁判上の和解を理由として、本件賃貸借に借地法一一条の適用がないとしたのは違法であるが、その違法は判決の結果に影響を及ぼすものでない。しからば本件賃貸借に前記法条の適用はないとし、上告人の本訴請求を排斥し被上告人の反訴請求を認容した原審の判断は、結論において正当である。

所論のうち、違憲をいう点は、その実質は、本件賃貸借に借地法一一条の適用がないとした原審の判断を非難し、これを前提として原判決を非難するに帰するところ、右判断が結論において正当であることは前記のとおりであるから、所論違憲の主張は前提を欠き採用のかぎりではない。なお、所論は借地法四条に関する原判決の違法をいうが、原判決は、本件和解条項二項の特約は有効であり、借地法四条の規定する更新請求権も買取請求権も有しない旨を判断していることは判文上明らかであつて、原判決には所論の違法も認められない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

裁判官 岩田誠は病気につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 入江俊郎

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